香りの散歩道


ほろ苦き 恋の味なり

墨絵・朝野泰昌

「朝初春の香りを届けてくれる山の幸、蕗の薹(ふきのとう)はお好きですか。天ぷらや蕗味噌(ふきみそ)にして食べると、ほろ苦い味と香りが楽しめますね。

蕗の花が咲く前の蕾の部分を、蕗の薹と呼びます。
すーっと伸びた蕗と、ふっくらした蕗の薹は、土の中で育つ茎、地下茎でつながっています。

明治生まれの俳人で、女流俳句の先駆者といわれる杉田久女(すぎた・ひさじょ)は、蕗の薹を題材にしてこんな一句を詠みました。

ほろ苦き 恋の味なり 蕗の薹

あの苦みを恋の味にたとえた久女は、明治42年に19歳で結婚し、二児の母となった26歳で俳句と出会いました。
大正時代のはじめ、俳句を嗜む女性はまだまだ少なかった時代のことです。久女が師と仰いだ高浜虚子(たかはま・きょし)は、「男子の模倣を許さぬ特別の位置に立っている」という言葉で、彼女の句を称賛しました。

そんな時代背景を知ると、ほろ苦き 恋の味なり 蕗の薹という句の味わいが変わってきませんか。
それと同時に、令和の時代にも色あせない句であることに、感動を覚える方もいらっしゃるでしょう。

明後日、1月21日は杉田久女の命日で、「久女忌(ひさじょき)」という俳句の季語にもなっています。
蕗の薹に恋の苦さを重ねた俳人に、思いをはせてみませんか。


*毎週水曜日・FM山陰.他で放送中  ↓mp3です。 wmp等でお聞き下さい。

1月分は現在放送中に付き、もう少々お待ちください。


『朝野家・香りの散歩道』は朝野家提供で、

毎週水曜日FM山陰(16:55~17:00)放送、日本海新聞に掲載されます。



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