明治25年2月4日。
みぞれまじりの雨が降るなか、一葉は半井桃水(ならからい・とうすい)のもとを訪ねます。
そのとき一葉は19歳。小説を書き始めたばかりで、新聞記者で小説家としても活躍していた桃水に、執筆の手ほどきを受けていました。
でも、それだけではありません。色白で背が高く、物腰も柔らかい好男子の桃水に、一葉はほのかな恋心を抱いていたのです。
雪も厭わずに訪ねた憧れの人の家でしたが、前日の帰りが遅かった桃水はまだ寝ていました。
一葉は、寒い玄関先で2時間近くも桃水が目覚めるのを待ちます。
ようやく起きてきた桃水は、なぜ起こしてくれなかったのか。
遠慮し過ぎだよと大笑いして、自らお汁粉をつくってくれました。
餅を焼いた箸を、「これにて失礼ながら」とお汁粉といっしょに差し出す、飾らない人柄にも一葉は心ひかれたのでしょう。
思いを寄せる人が手づくりしてくれたお汁粉を食べながら、小説の話を聞く・・・。
日々の生活で苦労の多かった一葉にとって、甘い香りに心もカラダもあたたまる幸せな時間だったことでしょう。
雪と、お汁粉と、恋心。
近代日本を代表する女流作家、樋口一葉にもこんな一面があったのですね。
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